*「実家の茶の間」 新たな出発(6)*
<コロナ前の姿へ 「昼食再開」①>
―朝のミーティングから気合十分―
―「うまかったわ、やっぱりこの味だね」―
<9時半には15人が集合>
7月5日(月)の午前9時30分。新潟市の「実家の茶の間・紫竹」には、運営委員会代表の河田珪子さんをはじめ、お当番さんや地域のサポーターら15人が顔をそろえていた。実家の茶の間では運営日の度に、お当番さんらがミーティングを開き、衛生・安全面の対策を確認し、その日の運営に万全を期すことが日課になっている。この日は1年4カ月ぶりに「お昼」を再開する初日とあって集まったメンバーの数も多く、気合も一段と入っている感じだ。
写真=7月5日のミーティング。後ろ姿が河田珪子さん
<「お当番さんが走るのは厳禁よ」>
お昼を再開するに当たって、お当番さんたちは食事をとっても「密」にならない距離感を確認していた。「お座敷は17人程度なら十分大丈夫です」との報告に、「多くて18人までですかね」と河田さん。「廊下に椅子を置いて5人」、「事務室は6人OKです」との確認が追加報告される。「そうすると、何人までなら一度に昼食を取っていただけるの?誰か足し算して」と河田さんが緊張をほぐすように語り掛ける。「28から29。30人弱ですね」と当番さんの一人が応じた。
空気がなごんだところで、河田さんは大事な点を念押しする。「今日は、お当番さんが走ったり、パタパタしたりするのは厳禁ね。あわただしい雰囲気になるから。当番業務が中心ではなく、来られた方に『あーっ、茶の間にきて良かったな』と思っていただくことを最優先にいきましょう」。お当番さんがうなずき、話題は今日からの時間延長に移った。「午後4時まで1時間長くなりますから、以前のように書道をやるとか、皆さんそれぞれがゆったりと楽しめるように心がけていきましょう」「今日は、まず、じっくりと様子を見ながらですかね」と意見交換が続く。「時間は延長になりますが、片付けはあまり早くから始めないようにね」「ここは、参加される方ご自身が、後片付けもできる範囲でやってくれるから、10分もあれば十分に片付きます」と連絡事項が行き交い、河田さんが「そうよね。早く片づけに取り掛かるのは、家に人がきた時、早く帰るようにと箒を立てるのと同じになりますからね」と締めくくった。
<グループで最終確認>
写真=グループミーティングでも活発に意見が交わされる
全体のミーティングが20分ほどで終了すると、今度はこの日のお当番さんが集まってグループでの最終確認だ。お昼がある時は料理当番さんが2人と、受付や検温・消毒をはじめ、良い雰囲気づくりへの気配りから報告日誌つけまで担当する「お世話焼き」2人の4人体制となる。ただ、この日は昼食再開の初日とあって、それ以外のスタッフも積極的に動いており、グループミーティングへの参加者が多かった。「お昼の希望者には、受付の時に昼食希望のリストに名前書いてもらうのを忘れないでね」「でも、とがめるような口調は厳禁ですよ」と確認が続く。
実家の茶の間のミーティングは、河田さんのリーダーシップがあるのは確かだが、「どこにシナリオがあるのか」と思うほど、自然に流れていく。自然の流れを生むチームワークこそが、これまでの取り組みで培われた、実家の茶の間の財産のようだ。この日の料理当番の一人は、「もうベテランだから、お任せでいいわよね」と声を掛けられると、「なんせ、1年以上もやっていないから…。野菜の切り方サイズとか、すっかり忘れてしまったわ」と冗談を交えながら最終準備を進めていた。
<「密にならないように」自主的に移動>
午前10時が茶の間の公式オープン時間だが、この日も10時前から常連のお年寄りたちが姿を見せ始めた。11時半過ぎ、調理室では30人分の昼食が整い始めていた。メインは「具だくさんの豚汁風みそ汁」で、副食が「油揚げの煮つけ」だ。お茶碗に盛られた「銀シャリ」が、うまそうな輝きを放っている。サポーターの武田實さんが、ご飯を見やりながら「きょうのご飯はうまいよ。なにせ二升炊きの電気釜を昨日買ってきたばかりだし、おコメもいいものを用意したからね。ご飯はやっぱり、いっぱい炊くと美味しいのよ」と解説してくれた。大皿での取り回しができないので、再開のために用意した小さ目のお膳に一人前ずつ盛り付けてラップを掛ける。後はお手伝いスタッフが手を入念に消毒して運び役に。すると、お座敷で寛いていたお年寄りが3人ほど「私たち、密にならんよう、事務室で食べるわ」と自主的に移動。正午前には「お昼」の態勢が整った。
<あくまでも「黙食」で>
写真(左)=いよいよ配膳開始 (右)=新品の二升炊き電気釜。この日がデビューです
自分たちの前にお膳がくると、「これだて。これを待っていたんだわ」と再開されるお昼を前に嬉しそうな声が響く。お昼のBGMが流れたら「黙食スタート」の合図だ。参加者はお弁当の時から「黙食」に慣れているせいか、落ち着いた様子で1年4カ月ぶりのお昼を楽しんだ。
写真(左)と(中央)は座敷での昼食風景。みんな「黙食」だ (右)は今日の食材のリスト。みんなで確認する
ラップを取ってからマスクを外し、ゆったりと昼食を楽しむ。食べ終わった人からマスクをつけ、「いやぁ、おいしかった」「みんなでいただく―待ってた、この味らて!」と、確認するように感想を述べ合っていた。全員が食べ終わり、それぞれが自分の食卓を消毒し終えると「片づけができる方はお手伝い、お願いします」の声が掛かる。体が効きにくい方のところへは、すぐにスタッフがお膳下げに入る。昼食再開の初日はすべて順調だった。
写真(左)=事務室でお昼をとる参加者たち (右)=こちらは廊下を使っての昼食。「ここが一等席だわ」の声も
<「青空記者の目」>
こうして再開初日のお昼は終わった。「いかがでした?」とスタッフは笑顔でお年寄りたちから感想を聞き出す。「いや、おいしかったけど、私には量がちょっと多すぎてさ」と80代後半の男性が言う。「ご飯のお替わりも、ラップ掛けのご飯茶碗を近くに置いてくれていてよかった」「小盛りがあると、もっとお替りしやすい」などの声が聞かれた。
実家の茶の間でお出しする昼食で、お当番さんたちが気にしている一つは栄養だ。この日も使われた食材がすべて書き出され、参加者も見られるように壁に貼り出されていた。「20品目以上は確保できていましたか?」「おコメや調味料は別にしての20品目が最低必要なのよ」「青物が少し足りなかった気がする。野菜は明日、買い増ししましょう」などの声が出され、河田さんは「今日の反省会で、今のような意見を出し合っていきましょう」と引き取っていた。「お昼再開」は無事に軌道に乗ったように見えたが、お当番さんたちは「さらなる改善」を考えていた。これも「河田組」のチームワークが生み出す活力なのだろう。
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